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名古屋高等裁判所 昭和49年(行コ)5号 判決 1975年10月30日

控訴人 上床愛子

右訴訟代理人弁護士 北村利弥

同 竹下重人

同 戸田喬康

同 河内尚明

被控訴人 愛知県高辻県税事務所長 中根不二夫

右訴訟代理人弁護士 佐治良三

同 後藤武夫

同 林雅己

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し別紙目録記載の土地建物につき昭和四六年一一月一三日付でなした不動産取得税二万二一四〇円の賦課決定処分(審査裁決により取消された後のもの)を取消す。訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、左記を附加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれをここに引用する(ただし原判決二枚目裏八行目の「以下、単に旧地方税法という。」とあるのを削除し、三枚目表一行目、五枚目表九行目及び七枚目表二行目にそれぞれ「旧地方税法一八条一項」とあるのをいずれも「昭和三八年法律第八〇号による改正前の地方税法一八条一項」と改める)。

一、控訴人の主張

1.日本国憲法施行以前のわが国の国税・地方税に関する法令には消滅時効に関して別段の定めがなく、原則として旧会計法(大正一〇年法律第四二号)三二条の消滅時効の規定が適用されていたものであるところ、右消滅時効の起算日については、民法における金銭債権の消滅時効の起算日と同様に「権利を行使することができる時」即ち権利行使につき法律上の障害がなくなった時と理解されていたのであり、租税についていえば、時効年限の起算日は徴収権を行使しうる時であって、定期税においては法定の納期の終った翌日から起算するを原則とし、不動産取得税のごとく随時税においては課税原因の発生した時から起算すべきものと解されていた(美濃部達吉著、日本行政法下巻一一八二頁)。

2.ただ例外として、国税または府県税に対する附加税とされていた市町村税については、国税・府県税の課税処分が遅延した場合に、同一事実を課税原因とする市町村税の消滅時効の起算日を、その課税原因たる事実の生じた時か(昭和四年五月九日行政裁判所判決)、それとも基本となる国税、府県税の課税標準が決定された時か(昭和八年一一月四日、同一〇年七月二三日行政裁判所判決)、旧会計法上に明文の規定がないために見解の対立があったところ、昭和二四年法律第一六九号地方税法の一部を改正する法律によって旧地方税法に二六条の二の規定が加えられて右の点は立法的に解決され、同時に地方税中附加税ではない不動産取得税などの消滅時効の起算日については、原則の「権利を行使することができる時」即ち権利行使につき法律上の障害がなくなった時から消滅時効が進行するという解釈が側面的ながら確認されたのである。

そしてこの旧地方税法二六条の二の規定は地方税法(昭和二五年法律第二二六号)一四条に引きつがれた。

3.その後、租税の消滅時効について、租税徴収制度調査会が、随時税にあっては課税原因発生の時(課税標準の申告を定めているものについてはその申告期限、申告等の手続を定めないで納付期限を定めているものについてはその納付期限)から、申告納税制度を採用するものにあってはその申告期限の翌日から権利を行使することができるという解釈上の見地に立って、消滅時効は権利を行使することができる時から進行するという制度を維持すべきである旨の答申をした。そこでこの答申を基礎として、国税については新国税徴収法(昭和三四年法律第一四七号)に一七四条の規定が設けられ、地方税については右と歩調を合わせた昭和三四年法律第一四九号による改正で、地方税法に一八条として新国税徴収法一七四条と全く同趣旨の規定が設けられた。

以上の立法経過に照せば、本件に適用される右地方税法一八条(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの)にいう「これを行使することができる日」とは、随時税である不動産取得税についていえば課税原因発生の時と理解されていたことが容易に推認されるのである。

4.また本件後の地方税法の改正により、課税権と徴収権とを区別し、前者については除斥期間、後者については消滅時効を規定し、課税権の行使は原則として法定納期限の翌日から三年とする期間制限規定が設けられたが、不動産取得税に対する課税権の行使についてはその期間を特に五年とする規定が設けられた(一七条の五の一項、三項)。これは不動産の取得があれば不動産取得税を課することができる(権利を行使できる)ことになるが、登記等がなされないことによる課税権行使の困難性を緩和するためであり、このような本件後の立法措置に照らしても、地方税法一八条(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの)の権利を行使することができる日とは、不動産取得税の場合は課税原因発生の時と理解されていたことが推認されるのである。

二、被控訴人の主張

1.控訴人は旧会計法三二条に定める消滅時効の起算日の解釈について、一学説を引用しこれを当時の通説であるかのごとく主張しているが、これは控訴人の独断にすぎない。控訴人引用にかかる学説は、如何なる理由によってその結論が導かれるに至るのかを全く示していないのであるが、推察するに、右学説が発表された当時には、租税の消滅時効の起算日について実務上現実に争われた例もなかったところから、私人間でなされる売買契約等の法律行為と全く無関係な立場にある国または地方団体とそれら契約当事者との間に生起する租税法律関係の次元に、一般の契約等に基づき相対立する当事者間の私法上の権利関係の次元における民法一六六条一項の一般的解釈を全く無反省に持ち込んだものと思われるのであって、これをもって通説的見解とすることはできない。不動産取得税の消滅時効の起算日については「徴税官庁ニ於テ納税義務者ノ申告其他ノ事実ニ依リ不動産所有権ノ取得アリタルコトヲ確認シウベキ場合ニ於テハ其ノ事実アリタルトキヨリ然ラザル場合ニ於テハ不動産ニ関スル所有権移転ノ本登記アリタル時ヨリ進行スルモノトス」とした昭和七年一〇月四日行政裁判所判決が当時の通説的見解と評しうるものであったのである。

2.昭和二四年法律第一六九号による改正で旧地方税法に時効に関する規定として二六条の二が加えられたからといって、何故に右改正によって不動産取得税の消滅時効の起算日が「課税原因発生の時」であるとの解釈が側面的にしろ確認されたといいうるのであろうか。不動産取得税が右改正後の二六条の二の二項に該当しないことは事実であるが、そうであるとすれば同条一項の適用を受けるという結論が導かれるのみであり、同条一項の「五年間これを行なわないとき」の定めについて、その起算日をいつと解すべきかは同条二項とは別に論定されるべき問題である。控訴人は、附加税について右二六条の二の二項が特に課税原因たる事実発生の時ではなく、本税の課税標準決定の時から時効は進行すると定めたのだから、不動産取得税など附加税でない地方税はすべて課税原因たる事実発生の日が消滅時効の起算日であると解そうとするが、このような反対解釈は明らかに誤りであるといわざるをえない。けだし地方税の中で、課税権者において課税原因発生の事実を知り得ないようなものの消滅時効の起算日の取扱いについては、本税との関係でこれをどう取扱うべきかというような附加税についての取扱いの理念とは全く違う理念に基づいて決せられるべきだからである。

ところで地方税法(昭和二五年法律第二二六号)の一四条は、旧地方税法二六条の二から右の附加税という特殊な租税制度に関する規定(同条二項)を取り除いたのみで、他に何ら変更はないものであるから、その解釈上の変更の可能性もないのである。

3.租税徴収制度調査会が昭和三三年一二月八日付答申の中で時効制度就中時効期間について「現行制度においては、租税債権は、その権利を行使することができる日から五年間を経過したときは、時効により消滅することとされているが、今後もこの建前を維持することとすべきである。」旨の意見を具申し、右答申を背景として新国税徴収法(昭和三四年法律一四七号)に一七四条の規定が設けられ、地方税については昭和三四年法律第一四九号による改正で、一八条(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの)に新国税徴収法一七四条と同趣旨の規定が設けられたことは事実であるが、同調査会が租税の消滅時効について控訴人主張のような解釈上の観点から右の答申をしたものでは断じてない。右改正による地方税法一八条(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの)の「これを行使することができる日」の解釈にまで立入って答申をしたという事実はなく、右の点は一般の解釈問題としてなお残されていたのであり、被控訴人が既に詳述したとおり(原判決事実欄被告の主張四、)、課税権者において賦課権発生の事実を知り、または知りうべき日と解すべきである。

4.その後の地方税の改正により、課税権の行使は除斥期間、徴収権の行使は消滅時効によって制約さることになり、各種地方税の課税権行使の除斥期間は原則として法定納期限の翌日から三年と定められたが、不動産取得税についてはこれが課税することができることとなった日から五年と定められたことは控訴人の主張するとおりであるが、不動産取得税についてこのような立法上の措置がなされたのは、その課税原因事実の捕捉が登記もしくは申告以外の方法によっては殆んど不可能な税であって、右改正前までは判例及び行政解釈において登記のあった時を知り得べき時としてこの時から五年間は賦課できるとされていたものであるため、直ちに他の地方税と同様にその除斥期間を取得の事実のあった時から三年と定めてしまうことは、課税の適正を欠くおそれがあるところから、期間についてのみ従来と同じ五年間と定められたのである。従って一七条の五の三項が設置されたことは、控訴人の主張とは逆に、一八条(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの)にいう「これを行使することができる日」とは、登記等により課税権者が不動産取得の事実を知りまたは知り得た日であるとの解釈が従来より行なわれていたことの一証左にほかならないのである。

5.更に附言するに、そもそもいかなる租税債権についても、その課税原因たる事実(実体関係)そのものが私人間において係争中その他で不明確となり、実質的に課税そのものが不可能な場合においては、当該租税債権の消滅時効は、少なくともこれらの紛争が解決するまでは、租税法律関係の特殊性の見地からして、その進行をはじめないものと解することこそ正当である。従って、控訴人と訴外藤田芳子との間において本件不動産の取得そのものの存否、効力が争われた本件の場合には、右紛争が解決した時(和解成立の時、昭和四六年五月二八日)まで本件不動産取得税の消滅時効は進行をはじめないものである。

三、証拠関係<省略>。

理由

当裁判所の判断によるも控訴人の請求は理由がなく棄却すべきものと考える。その理由は、左記の附加、訂正をするほかは、原判決理由説示のとおりであるからこれをここに引用する。

一、1.原判決一三枚目表一行目から三行目までを削除し、同部分に「そこで考えるに、不動産取得税においてこれを行使することができる日とは、やはり課税権者たる道府県において課税原因が発生したことを知りうべき日であり、登記、申告あるいは市町村村長からの通知等があった日と解するのが相当であると思料する。」を加える。

2.原判決七枚目裏一〇行目及び一一枚目表二行目にそれぞれ「旧地方税法一八条一項」とあるのをいずれも「昭和三八年法律第八〇号による改正前の地方税法一八条一項」と改め、同一一枚目裏一〇行目及び一四枚目表一〇行目末から一一行目にわたりそれぞれ「旧地方税法」とあるのをいずれも「昭和三八年法律第八〇号による改正前の地方税法」と改め、同一三枚目表四行目に「旧地方税法七三条の一八」とあるのを「地方税法七三条の一八」と改め、同一一枚目表五行目の「(以下、旧地方税という。)」とあるを削除する。

二、控訴人は地方税法に一八条(昭和三八年法律第八〇号による改正前のもの)が設けられるまでの立法経過に徴してみても、不動産取得税の賦課権の消滅時効はその課税原因発生の時から進行するものと解釈されていたものであることが明らかであると主張するので検討する。

1.租税債権は実現される過程からみて賦課権と徴収権とに区分されるところ、昭和三八年法律第八〇号による地方税法の改正で更正、決定等の賦課権の行使について期間制限の規定が設けられるまでは、地方税の賦課権を行使することができる期間につき特別の規定がなく、租税債権自体あるいはその徴収権と同一の消滅時効によって制約されるものと考えられていた。

2.ところで、昭和一五年に制定された旧々地方税法(昭和一五年法律第六〇号)においては、府県及び市町村の徴収金(府県税あるいは市町村税とそれらの督促手数料、延滞金及び滞納処分費)の時効は国税の例による、ただし附加税たる地方税で本税の決定により賦課しうるに至るものの時効は本税決定の日より進行するものとされていたところ(同法二五条)、国税の時効については、関税のように特別の規定がおかれているものを除き、一般的には公法上の金銭債権として、旧会計法(大正一〇年法律第四二号)または会計法の時効の規定が適用されていた。

従って旧々地方税法時代においては、独立税たる府県税であった不動産取得税(市町村税は附加税)の賦課権には旧会計法三二条または昭和三一年法律第一一三号による改正前の会計法三〇条が準用され、五年間の時効で消滅するものとされ、その消滅時効の起算日については、民法の規定の準用により「権利を行使することを得る時」から起算すべきものとされていた(旧会計法三三条、前記の改正前の会計法三一条、民法一六六条一項)しかしその権利を行使することを得る時がいつかということは、解釈上論定されなければならなかったところ、既に旧々地方税法施行前の地方税ニ関スル法律(大正一五年法律第二四号)及び同法律施行ニ関スル勅令の施行時代から、徴税官庁において納税義務者の申告その他の事実により不動産所有権の取得があったことを確認しうべき場合にはその事実のあった時、そうでなければ不動産所有権取得の登記があった時とする裁判例があり(行政裁判所昭和七年一〇月四日判決、行録四三輯七八五頁)、またこれに対して、権利を行使するのに法律上の障碍がなくなった時とする民法解釈上の原則が租税債権についても準用されるとして、不動産取得税のごとく随時税にあっては課税原因事実の発生した時から進行するという見解もあって(美濃部達吉著日本行政法下巻一二七二頁、一一八二頁)、不動産取得税に関する限り、判例学説上必ずしも解釈が統一されていたわけではなかった。

3.しかるところ、旧々地方税は昭和二三年法律第一一〇号による改正で全文改正され、旧地方税法が制定されたが、時効に関する旧々地方税法二五条の基本規定は旧地方税法二六条二項に承けつがれた(もっとも右改正で従来道府県の普通税の一種であった国税附加税が廃止された関係から、旧々地方税二五条の「附加税たる地方税」の文言が旧地方税二六条二項では「附加税たる市町村税」と変った)。

そして昭和二四年に至り、同年法律第一六九号による旧地方税法の一部改正が行なわれた機会に、旧地方税法上に国税法規からは独立した時効規定を設けることになり、旧地方税法二六条二項は全文改められ、新たに時効規定として二六条の二がおかれた。しかしこの改正においても、これまで各地方税そのものの消滅時効について規定していたのを改めて、その賦課権及び徴収権の面からこれを規定したことと、新たに都市計画税たる市町村税のうちには本税の課税標準が決定されなければ賦課することができないものがあるので、その時効の起算日を従来の附加税たる市町村税と同じにしたほかは、これまで準用されていた会計法の時効期間や中断事由の規定及び右の改正前の二六条二項ただし書の規定等が整理統合されたにすぎないのであって、結局附加税または都市計画税たる市町村税のうちで、本税の課税標準が決定しなければ賦課することができないものを除くその他の各種地方税(賦課権及び徴収権)の時効の起算日については、一律にこれを定めることができないとして、従前どおり個別に解釈上論定すべきものとされた。従って不動産取得税の時効の起算日に関する前記解釈上の意見の対立は依然として残されたままであった。

4.その後昭和二五年七月三一日シャウプ勧告に基づく地方税法(同年法律第二二六号)が制定施行され、旧地方税法は廃止された。右地方税においては、シャウプ勧告に則り従来の雑多な税目が廃止整理されたところ、不動産取得税も一旦ここに廃止された。そして昭和二九年に至り、地方財源の充実をはかるため地方税法の一部改正が行なわれ(同年法律第九五号)、再び不動産取得税は道府県税として復活されたところ、地方税法一四条は、消滅時効について「地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利は、五年間行なわない場合においては、時効により消滅す。2.この法律の規定による地方団体の徴収金の納付又は納入の告知(中略)は民法(中略)第一五三条の規定にかかわらず、時効中断の効力を有する。」と規定したのみであった。これは内容的には、税制の改正ですべての附加税制度が廃止され、都市計画税も水利地益税に吸収されたことにより死文になった旧地方税法二六条の二の二項を削除し、同条一項及び三項の規定をそのまま承けついだものであり、改正前と改正後とで各種地方税の時効の起算日についての考え方は何ら異るところがなかった。

5.そして昭和三四年には、租税徴収の確保、私法秩序の尊重及び徴収の合理化を基本理念とした租税徴収制度調査会の答申に基づき、国税徴収法の全面改正が行なわれ、これと並行して地方税法についても右に準ずる改正が行なわれたのであるが(同年法律第一四九号)、これは時効制度について「現行制度においては租税債権はその権利を行使することができる日から五年間を経過したときは時効により消滅するとされているが、今後もこの建前を維持する。時効の援用を要しないこと及び時効利益の放棄を認めないことを立法化する。」という同調査会の答申(乙一一号証)に基づき、前示一四条に代わるものとして、昭和三四年の右改正法律一八条において「地方団体の徴収金を目的とする地方団体の権利(中略)は、これを行使することができる日から五年間を経過したときは、時効により消滅する。2.前項の場合には、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。3.地方税の徴収権の時効については、本節に別段の定があるものを除き、民法の規定を準用する。」という規定を設けたのであって、この改正においても、各種地方税の賦課権及び徴収権の時効の起算日については、「これを行使することができる日」としたのみで、それがいつかということは、やはり各地方税につき個別に論定されるべきものとしたのである。従ってその解釈上の考え方に変更はなかった。

地方税法の時効規定に関する立法の経過は、以上にみたとおりであるから、不動産取得税の賦課権について、昭和三八年法律第八〇号による改正前の地方税法一八条にいう「これを行使することができる日」とはいつであるかを論定するうえで右の立法経過は直接意味を有するものではないと考えられる。控訴人のこの点の主張は採用できない。

三、また、控訴人は本件後の地方税法の改正により、賦課権の行使について原則として法定納期限の翌日から三年の期間制限規定が設けられたが、不動産取得税の賦課権の行使については、これが特に五年間と定められた経過に徴すれば、不動産取得税について、昭和三八年法律第八〇号による改正前の地方税法一八条の「これを行使することができる日」とは、課税原因発生の時と理解されていたことが推認される旨主張する。

しかし、本件後の昭和三八年法律第八〇号による改正及びその後の改正で、不動産取得税にかかる賦課権について除斥期間が右控訴人主張のとおり定められたのは、被控訴人の主張するように、この税の捕捉は、申告に基づいてされる場合は極めて少なく、特に承継取得に対して課するものにあっては殆んどが登記簿によって課税客体の捕捉をしてきた実情であり、従来の判例、解釈においても、登記があった時を知り得べき時としてこの時から時効期間の五年間は賦課できるものとしていたので、これらの点を考慮し、取得の事実のあった日から三年と直ちに改めることは、課税の適正を欠くおそれがあったからであり、従来から行なわれてきた課税実務に対し大幅な変更がないようにとの配慮によるものである(甲第四号証)。従って本件後の立法措置も前記一八条についての控訴人の解釈を裏付けるものとはいえないので、控訴人の右主張もまた採用の限りでない。

四、してみると、被控訴人のその余の主張について判断するまでもなく、控訴人の本訴請求は理由がないから棄却すべきであり、当裁判所の右判断と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないので棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山内茂克 杉山忠雄 裁判長裁判官綿引末男は転補のため署名押印することができない。裁判官 山内茂克)

<以下省略>

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